ぼけぼけ、動きの方向、『シテール島への船出』



リハーサルに出かける前に取りにいった写真がぼけぼけでびっくりした。
得に白黒はぜんっぜん写ってない。
白く飛んじゃっているし、暗い写真は全部ぼけてる。
まゆちゃんと奈美とのお花見もぶれぶれだよ。ごめんね。
でも面白いなあ。
こうしてちょっとずつ学習してゆくんだ。(まだ失敗しかしてないくせに)

リハーサルは、別のキャストが主の練習だったのでじっくりと見る。
だんだん、放射状の動きと螺旋の動きの違いが見えてくる。
でもバレリーナはすごいな。ほんとうに8方向がからだにきちっと入っているんだもの。
その方向をきちっと守って踊っているんだもの。
ちょっとそれいただき。と思って考えながら動き始めたらキリがなくなってしまって、呆然として終わってしまった。

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北千住で『シテール島への船出』を見た。
翻訳が池澤夏樹さんで一瞬びっくりした。
そうか、アンゲロプロスと友達なんだっけ。
白い灰色の瓦礫や壁とか霧、そして太陽の前や後のあおがとても美しかった。
こころのどこかで大切な何かを待っていることについて。
実感はいつも遠くにあって、ひとつ身を引いて俯瞰している。
叫んでも泣いても届かないから大人になるしかない。
待たせるひとはいつまでも子供だ…どこか。
そして再会が全てを逆転させるのかもしれない。
はぐくまなかったものに逆襲される。
そんなようなこと。
いや、映画はもっと静かに時をすごさせてくれたんだけど。
一本の樹、折れた十字架と踊る影、窓辺の新聞紙を剥がすところ、食卓。
燃える小屋。
ちょっとタルコフスキーを思わずにはいられなかった。
けれどもっと想いは地を這っている。
最後、ふたりがどこにゆくのであれ、もう決して手をほどかないといい、と思う。

映画館はほんの5人とか6人しか入ってなくて、誰とも話もせずに黙って外に出た。
雨が相変わらず強く降っていたのが映画の中の温度や湿度をそのままひきずって、しばらくどうにもできない気持ちを抱えながら歩いた。
誰も失くしたわけじゃないのに、ずっと雨に打たれていて骨まで冷えてしまったような気持ちだった。