『イギリス人の患者』 マイケル・オンダーチェ 

はじめて読んだのは何年前だろう?
詩みたいだ、と思った。
どういうものを詩と呼ぶのかいまもってわからないけれど、そう思った。
色や匂いや温度、それからそういう抽象的なものじゃなくて、湿った草や土の味、透明な闇を縫う光、ひとの香り。そういう具体的なものが本からひっそりとけれど色濃くと立ち上がって、わたしを覆ってしまう。
いつまでもひとつひとつの景色に包まれていたくて、なかなか読み進むことができなかった。
ゆくてを阻むことばたちは酔いにも似た感覚でずっと残っている。

今回読んでみてオンダーチェが詩人なのだということを知った。
ああ、だからあんなにことばがシンプルなのに色鮮やかなんだ、と合点がいく。

モロッコの砂漠の風の名前のはなし。
砂漠なのにまるで水におぼれているかのような感覚のこと。
ハナがつくった小さな庭のこと。
本の余白に日記を書くこと。
火に日光が差し込んで色を失う光景。
…とても書ききれないけれど。

4人だけの秘密の花園のような。
こまごまとしたルール、ちいさな宝もののちりばめられた、ただここだけでまわっている国。

これからもきっと何度も読み返す。

イギリス人の患者 (新潮文庫)