『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』

ジョン・レノンが赤ちゃんのようにオノ・ヨーコに抱きついている写真で有名なアニー・リーボヴィッツ。
ジョンのこの写真が有名なのは、これがジョンの亡くなる4時間前に撮られたからでもあるけれど、でもこのDVDを見て、あの瞬間の持つつやつやとした特別な魅力がアニーと被写体との特別な関係から生まれたのだということを思った。

小さい頃から住む場所をうつすことが多かったという。
家族で荷物を詰めた車に乗り込んで、景色を車窓というフレームを通して見る。

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どこまでも続く砂漠や、まだ鳥たちが目覚める前の静かな草はら。
目覚めると運転する父の背中が見える。
でも何も言わない。
隣にはきょうだいの寝息。
ただ蒼い空、影を走らせる木々、ひとの建てたもの。
移動するその構図にこころの中でシャッターを切る。
…これは私の空想。
スイスからドイツに車で連れて行ってくれたひとを思い出す。
ものすごいスピードにおなかをびっくりさせながらもう一度眠りにしがみつこうとしていた。
急に車を止め脇に寄せ、ああ、休憩なのね、と通り過ぎる車の光を目で追う。
永遠にこの旅が続くといいと思った。

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移動することが自分の人生だし、自分が動いて歩き回って撮ったものは生々しい、そう言う彼女はとてもがっしりと自分の位置を確立しているように見える。
写真を撮られているいろんな人が、彼女といると撮られていることに気づかなくなると言っていたのは、それゆえなのかな、と考えた。

世界を旅できる仕事だから写真を選んだと言う。
なんだか、ちょっと震えた。


アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生