秋の虫の声を聞いていたら両耳にいっぱい溢れるように聞こえてくる瞬間があった。
なにかに似ている、なにかをからだが思い出しそうになっている、と考えたらお寺で鈴を鳴らしてもらった日のことで、あの時には蝉と鈴の音の層のあいだを縫うように踊ったのだった。

鈴の音は下瞼のあたりの層で聞こえる。
蝉はもう少し上。
ピアノは皮膚の表面。
チェロは肺の低いところから。
バイオリンはもっと喉元。

音をうけとめるからだの部分はこんなにもいろいろ。

世界には音がたくさんありすぎるので普段私はなるべく耳を塞いでいるのだと思う。
そうじゃないと苦しくなることがある。
音に触られることに耐えられなくなることが。


そっか、呼吸から遠いところにあるものにうまく馴染めないんだ。