『日々の泡』 ボリス・ヴィアン

もやんとしていたのはこのお話のせいだったのではないか。
もしかしてもしかすると。
いや、違うか。
けれど世をはかなみたくなるくらいに美しくかつ、現実は残酷だった。

クロエ、というこの名前はボリス・ヴィアンからではなくロンゴスから。
ロンゴスのお話ではクロエは若葉ちゃんみたいに溌剌と踊る少女だけれどこちらのクロエは熾火のように美しくてはかなかった。

読みすすむにつれてミシェル・ゴンドリーのように絵本みたいなそれでいて生々しい色彩が脳に飛び込んでくる。
若者たちはお伽話のなかに生きているのだ。
なのにクロエの胸に蓮の花が咲いてしまってからお伽話は残酷な面を見せる。蓮の花が育たないように溢れる花に囲まれたクロエは美しい。けれど、それまであちこちにちらりちらりと姿を見せていたぎざぎざした不吉な予感はすべてを圧迫してゆく。

ハツカネズミが最後猫にお願い事をするそのシーン。
この物語の登場人物はもしかしたら最初から牙のすきまにやわらかなくびを差し入れていたのかもしれない。
愛によって。

日々の泡(新潮文庫)