漆黒



(これは蔵ではないけれど、)
このあいだ「美の壷」という番組で蔵のことをやっていた。
宝物を守るために壁には平瓦をいれ、そのつなぎ目を漆喰で装飾する。
左官の職人さんが漆喰を少しずつ盛り上げ、乾かし、また盛り上げる。
壁の素肌の美しさ。
(ふと思い出したんだけど、ドバイの工事をするために1メートルくらいの左官のためのこてを送ったことがある。あれ、誰が使いこなせるんだろうか。)

江戸の商人たちは黒い蔵を渋くてかっこいいとしたそう。
白い壁の上に、黒ノロ(菜種油を燃やしてつくる「油煙」という高級なすすからつくる黒い塗料)を紙くらいの薄さにまで伸ばし、絹で磨き、そして素手で鏡のようにぴかぴかになるまでこすりつづける。
顔が映りこむまでに磨き上げた黒漆喰は美しかった。


時間と手をかけたものにはかなわない。
生きてきたそのこともそうだし、つくりあげたものもそうだし、その過程も。
だから何かを表現しようとしたら、丁寧に生きなきゃいけないんだよな、と思う。