夢/泥の土手、おとぎの森、歌うひと、夢の余熱の小鳥

土石流に父が流された夢をみた 親戚のような家族と、仲のいい近所のひとたちと2家族くらいと共同生活をしている お風呂とかはもっと多くのひとと共同みたい

私の部屋は今や細い畦を隔てたところの小さな空き地になってしまっていて、くずれかけたそこに何度か足を運ぶけどとうとう置いておいた洗濯物が泥水に押し流されようとしている 夜で、その空き地の土の中に仕込んである細い骨組みのようなものの脇からどんどん崩れていって、わずかに残った土とか草の上を伝いながらせめて大切な服を取ろうとする 父の大きなコートを流されないように掴むけど泥水で重たくて持ち上がらない 泣きながら引き上げようとする 足場はだいぶ露出していて高いところは4mくらいになっていてとても危ない 足元に力を入れたいけど、足場自体が泥の中に建っているからどんどん崩れて離れていってしまう 泥と水で重たくてどうしようもなくなったコートをただ押さえて泣いていると家族がやってくる もうすぐ土管の向こうに流されそうになっていた他の洗濯物をやっといくつか取ることができて弟の部屋から流されて浮かんでいたコンタクトを洗うトレーも拾ってあげられた もうあそこに洗濯物を置くのは無理だなと思う

お風呂で歯を磨いたらちょっとガラの悪い男の人とその彼女が入っていて、でも共同生活だし銭湯みたいに誰も気にしない ただ私は洗濯物が流されてパジャマのズボンがないからずっとうろうろと探している ドライヤーで髪を乾かしながら黒い光る壁を鏡代わりに自分を見たらいつもと全然違う顔だった ちょっと肌が石炭みたいに見えた 髪も肩につくくらい伸びていて乾かすのが大変だった

一緒に生活をしている中に、Nさんがいた 私が泥だらけで泣いているところを見かけたみたいでやさしく声をかけてくれる でも私はズボンをはいていないからちょっと恥ずかしくて声をかけられる直前でかわすように距離をとる

昔訪れたどこの国でもない森があって、そこにうさぎの血がほんの少しだけ混じった女の子がいた 髪は金色で白い肌の8歳くらいの女の子 Nさんはそこの国から来たひとだった その国は森なんだけどすり鉢状の窪地で、樹というよりは階段状に地上と底とをつなぐシダ植物のようなもので包まれている これは石上純也の設計だ、と私は何故か考えている その森の空気は他の場所より少し虹色であらゆるところに小さな動物が潜んでいる

ドライヤーで髪を乾かしながらNさんを私はこころの中で王子、と呼ぶ あの森はまるでおとぎの国みたいだし、金髪の女の子は不思議の国のアリスみたいだったから Nさんはは黒髪だったり金髪だったりするけどちゃんと正面から顔が見られない 黒い壁に映る顔とか、斜め後ろからの横顔とかしか ずっと気にしてくれて声をかけるタイミングを探ってくれている

私はズボンを全部洗っちゃったからやっぱりそのままで食卓につく 食卓には空っぽの丼が人数分並んでいてラーメンのスープの粉末の袋と、ま四角のちいさいお醤油入れに入った黒蜜みたいなものが添えられている ズボンがないんだよと言うと母は「この子は性格悪いからちょうどいいの」とみんなに言ってみんなが温かく笑う 性格悪いとズボンとどういう関係があるのかなと思うけどみんなが笑っているみたいだからいいことにする

そのひとが友達になってくれることだけがこの先を明るくする唯一のことだった

昨日もちゅんが夜中に目を醒ましてわたしのところに飛んできた。 夢を見ておきてしまうんだろうか。

怖い夢だった?と聞くけどいつもくちばしを閉じて秘密を漏らさない。 目だけが赤ちゃんみたいにまっすぐわたしを見て、なにかをうつそうとする。