3月半ばからの日記(地震、イリナ・グリゴレさん、me and you、高遠弘美氏最終講義)

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3月16日

日本で震度6強の地震。
タイムラインを見つめ知っている方の無事にほっとしながら、やはり11年前のことを思い出す。
この日はパリのはずれに日本を題材にした舞台を観に行った(感想は以下)。

 

3月17日

イリナ・グリゴレさんのコラムを読む。

イリナ・グリゴレさんの書く文章が好きで毎月水牛のようにが更新されるのが待ち遠しい。毎月2箇所ほどは、じいんと足が痺れて立ち止まってしまうような部分がある。

さて、昨年父がルーマニアから送ってくれたワインを開けてびっくりした。いつもの濃い血の色ではなくて、ロゼだった。味見すると祖父が生きかえったと思わせるぐらい祖父の味にそっくりのワインだった。(略)ワインの味まで優しくなって、娘にとっての祖父のイメージは私が見た父と違うと分かった。(略)私は娘の祖父になってありがとうと言いたくなった。今作っているワインの味で自分の父の心が初めて分かった気がした。遠く離れていても、私の娘の優しい祖父になってくれて、改めて彼の全てを許した気がした。ヤギのお世話をしている金髪の少年のイメージが浮かんで、父を自分の子供のように愛し始めた。

その翌朝に寝坊していた私のところに突然に来たその男の子に「お腹空いた」と言われた。私は夢かと思った。友達がお泊まりしていることさえ忘れてしまい、なぜ私のベッドの近くに男の子がいるのかも理解せず、目が覚めた。その瞬間に食べ物の恐怖から解放された。そうだった、人間は「お腹が空いているから」食べるのだと思い出した。

男の子はゆっくりトーストにバターを塗って、溶けるまで少し待って美味しそうに食べた。カリカリという音が聞こえた、噛むたびに。おかわりした。またゆっくり、儀礼のような動きでバターを塗ってまたカリカリ食べた。美味しいと評価した。

彼の食べっぷりは儀礼そのものだった。娘たちも同じ食べ方をする。なるほど、子供は分かっている。元々食べることは儀礼の行動だったのだ。狩された獣の見える肉だけではなく、見えない魂までもらうので、それはしっかりした踊りと動きで、感謝しないといけないと昔の人々は知っていたのだ。だが現在、このような行動は失われている。衣装も面もない。音楽も歌もないので、現代人にとって食べ物の味は昔の人が感じた味と違うだろう。でも、子供はまだ分かっているはずだ。お腹が空いている時しか食べないから。そしてたまに踊りながら食べるのだ。

(…引用しすぎですよね、すみません。)

いつもどうして、何がわたしを捉えるのか、考え込む。
私のそばを通り過ぎていってしまった「受け継ぐ」というようなことや、私自身も積極的には積んでこなかったように感じている時代のようなこと、もちろんここにある東欧の空気への憧憬もあろうけれど、イリナ・グリゴレさんの、かすかな震えや、一瞬さしこんだ光を見逃さず手に包み込んでおくようなところ。
描写はきっぱりして、こころの襞のようなものを細かく描き出してはいるのだけれど、べたべたと寄りかからない。もしかしたらこれは、母国語ではない言葉で書かれているということが関係しているのだろうか。アゴタ・クリストフのように。

一昨日に引き続いて今日も大きな地震があった。またも東北。
でも驚くのは、こんなに大きな地震があったにもかかわらず10分もすればタイムラインの話題は日常に戻ってゆく。この規模の地震にこんなに慣れ、備えられた国は他になかろう。
とはいえ少なくない被害が出ているようだし、特に寒い時期の寒い地方での罹災は11年前のこともよぎり胸が落ち着かない。家のどこかがきしめば身構えたあの年のことを思い出す。

 

3月21日

カチューシャの淋しメーターが日に日に上がっていって、今日などはちょっとでも物音をたてるとすぐにがしゃんと猫ドアから出てこちらの動向を伺う。可愛いし可哀想で、そのたびに向こうのペースに合わせてあげる。
猫と暮らすのはまだしばらく無理だ。どうしても自分のペースで生活ができない。
夜になって飼い主さんが帰ってきたらとたんに私たちのことなど放ったらかし。
なんじゃ。
まあ、嬉しそうだからいいのだけど。

 

3月25日

me and youで、2月22日の日記を書いた記事が公開された。

記事ができあがってからもme and youの竹中さんと野村さんのおふたりにはお手数をかけてしまった。でも丁寧で心のこもったお返事をいつも下さって嬉しかった。
これからこの日の日記が随時公開されるようなのでそれを読むのも楽しみ。

高遠弘美氏の最終講義をネットで聴く。
市河晴子という作家を知らなかったが、『歐米の隅々』と『米國の旅日本の旅』は特に読んでみたくなった。年内には素粒社からアンソロジーが出るとのこと。 
こちらに高遠弘美氏の書評が。

 

3月27日

夏時間への移行で1時間睡眠時間が削られたので、1時間余分に眠って通常の睡眠時間を保った。つまり寝坊。
マルシェには行けず、おかげでのんびりとした一日を過ごした。
散歩をして、ピザハットでピザを買いたらふく食べて、ソファで本を読もうとして3秒でうとうとして、夜は読書メモをscrapbox上で共有する可能性について考える。