オオカミ

少し前の夢

私は外が透けて見える部屋の中にいる 一緒にいる男の人はどういうひとか覚えていないのだけれどこの上なく邪悪な粘りのようなものを霧のように漂わせている 視界の向こうから大きくて熱いものが壁のすぐ向こうにどさりと投げ込まれた それは肩口から胴体を斬られて半分しかからだのない大きなオオカミだった オオカミは白銀のような眩しい毛の色をしていて、けれどそれが荒い束になって薄い茶色に汚れている 土や埃で汚れたというよりは死にむかってもがくことで染まってしまったように見える からだはばっさりと太くて鋭い屶のようなもので斬られているんだけど血は出ていない けれど汗なのかほかのからだからの液体なのか露のようなものなのかで毛並みがびっしょり濡れている オオカミはまだ全然生きることから離れる気配がなかった 地面に右の頬をつけながらも強い光の眼で私を見た すべてのものに牙をむこうとするには何か諦観のようなものもあって、その満ちているエネルギーには見合わない謐かさで何かに抵抗していた 両手で抱えて首に顔をうめたらすべてのにおいがしそうだった

男の人はその尊さを剥奪するみたいにオオカミを片手で掴んで持ち上げると私の足元に振り回した オオカミの透明の血が足に降り掛かって、私はその男の人をとても憎んだ