夢/死を待つ



死を待って寝ている夢をみた。

居間には母と親戚のおじさんがテレビを見ている。
ふすまを閉めて私は布団の中にいる。
からだの下半分が痺れている。もう自分が死ぬことは決まっていて誰もが静かにそれを待っていた。
けれど悲しくはなくて、ゆるやかでやわらかなあきらめがある。
寝返りをうちながらこれが死ぬ前のだるさなのか、と思う。どんよりとからだの中が曇って重たい。
でも本当に死ぬほど具合が悪いだろうかと自分に訊いてみる。
するとそれほどでもなかった。
おなかにぐっとちからを入れて起き上がってみて母に「さっきまでもう明日の朝には死んでいると思ってた」と言うと母も今まで私が死ぬことを覚悟していたのに途端にそれを笑い飛ばした。
あんたがしぬわけないでしょう、ただいつまでも怠けて寝ているだけよ、と笑う。
私は死に包まれていたからだを振り払ってテレビを見たり水を飲んだりして、生きてゆく生活をもういちど試してみる。けれど死に向かっていたからだの危うさはなかなか抜けないまま。

次に眠ろうとしたら天井から電気が剥ぎ取られていた。
厚紙を無理矢理剥がしたみたいに天井がびりびりになっている。
もう私が夜更かしをして死なないように母がそうしたみたいだった。

+

最初この夢の中で私はたぶんおばあちゃんだった。
母と、親戚のおじさんがいたのもそういうことだと思う(おじさんはおばあちゃんの息子)。
おばあちゃんのもういつでも生きることから離れる瀬戸際であるからだには苦痛はなかった。ただ重くて長い夕方みたいに生ぬるい気だるさがあるだけ。
私が生きることを考えたあたりで私はおばあちゃんから私になって、それは母がほんとうはかなしがっているのを知っていたからだ。
自分よりずいぶん早く死んでしまう娘を泣いたり下を向いたりしないで日常のなかで送り出す母のことを思ってもういちど立ち上がってみようとした。

前にも一度もう自分が死ぬことが決まっていて誰もが静かに諦めている夢をみた。
母と服の整理をしてどの服は誰にあげて欲しいという話をしている。
服を残すことでしか自分が消えさってしまうことを止められないと思った。
母はその時も泣いたりしないでいてくれた。


死が決まっていることは不思議だった。
あと何時間かでこのからだのなかに細々とでも燃えているものがどういう風にかストップする、その兆しから逃げながら探している。
死は大きな空洞みたいにただいろんなものをひっぱりこんでどんどん落としていった。
悪意はなくてただそういう性質のものだった。