いっぽん道/泉

動いているのはまだ見ない光
あたためられて、めぐって、呼吸をいっぱいに含んで、知らない時間に抜けていく
進む速度はだんだんにあがっていくけれど見送ることの方が早い
風もなく
でもこの音はなんだろう
誰のからだの音なんだろう
とどまる泉だろうか

太陽も月も見たことのない泉がそこにある
水はめぐるものだというけれどそれはほんとうだろうか
冷たいからわたしはそこでふさわしい指の温かさを知る
ではこれはわたしのからだの音なのかもしれない
波立ち、見えない天井に触れる、そしてまた知らないどこかで手をつなぐまで
水は噛むと甘かった

ぎりぎりのところで枝を避ける
深い森なのか下草まで照らされる林なのかわからない
目を離すことができない
目を離したらこの道はただの影になってしまう
やっぱり音がする
聞いたことがなくて、ずっとそこにある音
枝は塀になる
ここにもひとが住んでいるのか、と思う
こんなところに?
泉をこぼさないように慎重に息をする
もうこの登りの終わりで見えるだろう
海が