『アンチノイズ』 辻仁成

この「音の地図」という発想がまず私をわくわくさせた。
主人公は梵鐘の音に魅せられるのだけれど、私も家にいて時折聞こえる鐘の音をとても好きだと思っていたから。音を地図に表すなんて。こんなの暇があったらやってみたい。

辻仁成さんは音楽をやっているということは知っていたのでもっとスタイリッシュで乾いた話を書く人かと勝手に想像していた。村上龍みたいな…(村上龍さんの作品を少ししか読んだことがないから分からないけれど)。
でもそれだけじゃなくてとても繊細で、やさしい。
鋭いけれども。

満たされない心を抱く主人公はどこか幼い。
古い友人を見る主人公の視点は年相応なのにあるチャンネルではそれに矛盾するような不安定さがある。
それはこの話を貫いて描かれている他人と接するということ、人の心の真に深いところに触れるということの難しさからきているのかな。
自分すら確かじゃはない。
知っていると思うものは本当はとても不確かな確信なのかもしれない。
でも、分かりたいという希望があるから。
心の声を聞きたいと耳を澄ますから。


アンチノイズ