中国の芍薬

庭には中国から来た芍薬が植わっている。
冬の間に枝がからからに乾いていたのでこのまま枯れてしまうのではないかと心配だったのだけれど、ある日指を組み合わせた両手のような葉の芽がむくむく伸びてきてほどけ太陽をたくさん受けたかとおもうと、次々と蕾をふくらませていった。
芍薬という名前のはなやかなイメージからは遠く、花びらは一重で、血のような深い赤をしている。咲いてから1日か2日で散ってしまうので切り花にするよりも咲かせておくのが常なのだが、摘んでコップに活けてみたら部屋の遠くからでも強く匂うことに驚いた。よく陽にあたって熟れた果実のような、濃厚で荒々しい香り。植物というよりも動物の体臭みたいなかんじもする。咲いてから散るまでが早いということは、すでにもう朽ちるということが始まっている、その香りなのかもしれない。
軽やかで可憐な香りを想像して吸い込むとその強さに思わずたじろぐ。

Sに言わせれば古い家具の蜜蝋みたいな匂いらしい。
「この花いいにおいだよ」「ほんとだ、いい匂いがするね」で終わりそうな会話なののに、そこにある野性味のようなものを敏感に嗅ぎ取って、反応してくれることを嬉しいと思った。

この芍薬は大家さんが探し歩いて見つけたもので、なるべく地味な、原種に近いものをと希望して手に入れたのだそう。庭にはそんなふうに大家さんこだわりの植物がいくつも植わっているので、なるべく元気なまま守りたいと思う。