ひとりひとりのものであり、ひとりひとりのものでないもののこと

ある本を読んで、初めて氷に触った時のことを思い出した。
わからない。ほんとうの記憶じゃないかもしれないけど。
すごく澄んだ濡れたかたまりだったのにとても熱くてびっくりした。火傷をしたのかと思ったら手も濡れていた。
透明の中に炎がつまっているんだと思った。
怒っているみたいな気がしたけどきっとわたしのこころの動きだったんだろう。
ひとりだったのか誰かがびっくりしたわたしを笑ったのか覚えていない。
ただ、冷たいものは熱いのだと思った。

ほんとうじゃない記憶のことを考えている。
ずっと住んでいたら懐かしい場所になっただろう町とか、誰かの体験にこころを寄せることとか。
むかしじゃなくて、これからの時間がつくる記憶のようなこと。