サーキット、夏至の夕焼け



なにかにつけて今気になっていることがちゃんと姿を見せる、と、近づいているようなつもりになっていたかもしれない。
ここにきてぶっつりとふさがれる。
ああ、そっか。
同じ表面をぐるぐるとなぞっていたから似たものに出会っていたのか。
もしかしたら。

どこにも居場所がない、とひとり弱音を吐きそうになるとかならず、すくってくれるものがある。
たいていそれはひとだけれど、今日のひとつめは空だった。
一年でいちばん昼間が長い日。
電車を降りたらなにもかもが桃色に染まっていた。
サラリーマンの襟も、おじいさんのほっぺも、電柱も。
てらされているのはものばかりじゃなくて、空気までぜんぶその色だった。
呼吸をするのがしあわせに、重たかった。

携帯の電池が切れていたから友達に「空を見て!」って教えてあげることはできなかった。
ともだちも、お父さんやお母さんやちゅんや、なるべくたくさんのひとがこの夕焼けを見ていたらいいのになあと思いながら黙って何枚も写真を撮った。
(とはいえこの写真はずっとむかしの、いつかの夕焼け)

振り返るとどの建物もやっぱり黙って、顔を夕陽に向けていた。
いつも空や雨がうつるような壁じゃないのに、ぷっくりほっぺが紅色になってて、凛とたってる。
今日はばりばりと脱皮できる日じゃあなかったけれど、さいごになにかやさしい気持ちになれた。


帰ったらちゅんが大騒ぎしていた。
なにかがこころをはやらせたんだろう。
今は片足でわたしの腕にまあるくなっている。