* ふるい轍の記憶



よくどこにでもしゃがんであれこれを引っ繰り返していた。
小さな石をひっこぬき、凹みにもういちど石を合わせる。
苔を剥がして別の場所に移植する。
石の、土でひんやりと湿っている側との境目を指でいったりきたりする。
蟻の行く手に深い国境を掘り込む。
車にひかれてあじの開きみたいにぺちゃんこになった蛙を割り箸で剥がして埋めてやる。
たんぽぽを千切って白い汁を爪に塗る。
傘を置いて潜り込み、色のついた手のひらをみる。
深いところまで掘ると粘土のような土が出てきて、それは土に還ったばかりのひとの死体だと思っていた。
地面のから立ち昇る熱、匂い、這う虫、ふくらはぎを刺す細長い草。
蝉の声は地面の低いところに溜まる。
首の後ろばかり黒ぐろとよくやけた。

思い出す感触や風景はほんとうにその時のものだろうか?
セイタカアワダチソウが鋭く掌を突くのは、地面がことさらに重みをくゆらせているのは、今のわたしのつくりだしてみたことかもしれない。
けれどどちらにせよ、その景色を歩こう。
この瞬間の記憶とほんとうの過去をつなぐのは今ここにいるわたしで、両方同時に連れてゆけばいいのだから。

からだに突き当たった空気が擦り抜けていく。
狭いすきまは冷たく、大きく開いたところはぬるいまま。
境目をたどる。
石の、乾いたところと濡れた部分を指の丸さが石に沈み込むまで味わったのと同じように。
反発に負けてみたり、領域を犯したり。
一緒に吹き抜け、阻止もする。
でもひとつも留められないんだな、壊れたつぶがまたラインをつくる。
ひとに色が見えるとしたらきっとこれだ。

影のおおもとがどんな機能を持って動いたり止まったりしているのか。
ほんとうは確かめたいのに乱暴に放り出してしまう。
流れを止めている右肩だけ。
ここだけが言うことをきかないから、わたしがきいてやらなきゃならない。

きっとここに蓄積している。
滑り台の板がべこべこしていたこと、肉を挟むブランコの大きな鎖の味。
身構えるのも逃げるのもここが最初だ。
熱を生むのも、かき消すのも。