* 鮮やかな残像



目の離せないひとがいた。
なにがそんなに私のこころをとらえたのかわからない。
顔だって一瞬見えたきり、後ろに続いて電車を降りようとした時に柔軟剤のようないいかおりがして、つやつやの、自由な方向にカールした髪が見えたと思ったらすぐに駆けて行ってしまった。
彼女に追い付いてもういちどわけを探りたかったのだけれど、背中はどんどん小さくなっていった。
深追いする理由もない。
それに第一、私自身とまどっていた。

ぱっとそこだけが明るくて、全身の感覚がひまわりみたいに向いた。
ぐんとまっすぐ地面を踏みしめる若い鹿みたいに瑞々しくて、ちからに溢れていることに無頓着だった。
すみずみまで真新しくて、さらされながら絶えず発するほのかな熱に包まれていた。

きっとこの本を読んでいたから、なおさらまぶしく映ったのだろう。