岩手/地元のかたと話す



やっと土手まであがるとずっと向こうからジョギングしてくるひとがいた。
迷子のあいだ時々見えていたひとだ。
なん往復もしていっぱい汗をかいている。
この景色で初めてすれ違うひと。

私の前で急にスピードを緩めて「どこから来たんですか?」と歩調をあわせてくれる。
いろいろ話をした。
なんのスポーツをやっているか、どんな仕事をしているのか。
北上川は流れが激しいですね、と言うと、実はこのあたりは5年ほど前に全部床上浸水してしまったんですよ、と教えてくれる。
あの大きな台風の時。
ヘリコプターも出動して救助活動がおこなわれたらしい。
その時にはもっとひとが住んでいたのだけど、今は5世帯しか住んでいません。この堤防は、その5世帯だけのために築いたんですよ。と彼。
このあたりはひとがいないですね、バスもすごく少ないです。と言うと、駅まで送ってあげると言ってくれた。
トレーニングの途中なのに申し訳ないと断ったのだけれど、もう終わったからいいんです、と親切に車で送ってくださった。

そうだ、お礼のお手紙を書こうと思っていたのに。
関西に飛んだのですっかり忘れていた。

なんだかこの時、畑で迷ったときとても怖かったな。
大人だからそんなには怖くないんだけど、子供のときに味わったような、なにか罠にはまってしまったようなこわさ。
このままずっと迷い続けて陽が暮れてしまったらどうしようと考えたら(そんなことありえないんだけど)ちょっと涙が出そうだった。
大人だから泣いたりしません、もちろん。

でも、だからすごくほっとしたんだな、ああして話せたこと。


畑でちいさく迷子