女の子と仮面の男、カフェアマルにて



お花見の約束が流れにながれて、やっとMと逢うことができた。
もうさくらは終わっちゃったけれどちょっと育った新緑を見に井の頭公園に行くことに。
(霧のような雨が落ちてきたから結局いつものアマルに落ち着いてしまったけれど。)

少し歩くと女の子がひとり、仮面の男に釘付けになっていた。
垂れ下がる湿ったみどりを後ろにしてそこにはちょっと、ヨーロッパの、迷い込んで魅せられるかんじのオリエンタルなおはなしの空気があった。
たぶんもっと小さな子でも、もっと大人に近くてもあそこに流れる空気は別のものだったのだろうな。
女の子は時々首をかしげながらずっと熱心に彼をみつめていた。
どんな表情で見ていたんだろう。
でもそのときはそんなこと考えなくて、ただじっと女の子の後姿を見ていた。
まるでその中に入って、私が仮面の男を見ることができるみたいに。

パフォーマンスはかなりセンスがよかったし、彼はみせることに慣れていた。
豊かな物語だった。
からだの動きも演出も考えられていて心配なく楽しめる。
最後まで声を出さなかったらずっと物語は続いたのに、とほんの少し残念に思う。

+

Mとゆっくり話すのはいつぶりだったろう。
わたしたちはいつだって答えの出ないことについて延々ともぐってゆく。
お互いに、あてどのない場所を求めて時間を止めていることに気付く。
確信の光のようなものの断片を見つけてぐっと相手の手をとってそこに触れさせてみても、果たしてそれがほんとうにその行く先のことなのか、導くほうにだってわからないのだ。
いつもひとりでいるときにはここは私のいる場所じゃないとかここでは息が吸えない、なんてことは考えないのだけれど、Mといると収まりきれない羽根がぎしぎしと折りたたまれていることを思い出す。
いつかわたしたちは一緒にヨーロッパに行く気がするね、と言う。
日差しをあびてブランチをしたり夜通しはなしたり、ときどきヴァイオリンを弾いてもらったりバレエの稽古をしたりするんだよね、と。
それはきっとヨーロッパで始まった縁だからというだけでは、ない。