新宿/大久保駅、大久保通り



この細い道にはちいさなラブホテルがあった。
ウォークマンを聴きながら歩いていた高校生の私は後ろから近づいてきてなにごとかを話しかけてきたおじさんのことばが聞き取れず「はい?」と訊き返したつもりがおじさんには「はい」という肯定に聞えたみたいで、そこにいきなりひっぱりこまれそうになったことがある。

そのホテルが、外壁はそのままなのに、ふつうのアパートになっていた。
所有者がふつうに住むことにしたのかもしれない。
看板がはずれ、門が塗りとざされ、いくつかの扉の奥にいまは連続する生活があるのだと考えると、新宿は箱みたいだな、ということをおもった。


小道の途中から私の後ろをわたしと同じ速度で歩いている、ラップふたりぐみがいた。
大学生くらいの年で、片方は自転車をひっぱっている。
即興にしては息が合っていてずっと振りかえるのを我慢していた。
大久保通りに出たとき彼らは反対側に歩いていったのでこっそり覗き見ると、全然予測していなかったことにひとりは外国のひとだった。


この小道を行くと、わたしが通っていた美容院がある。


ときどきこの文房具屋さんで文具を買っていた。
学校指定のなにかがここで売っていたような。