* けはい



なつかしい街にはいつかの自分の気配が漂っていて、記憶はそれを通じてやってくる。
誰かの面影も、くいいるような痛みやむねの膨らむような思いも、鮮やかな発見も。
歩きながら予感のように、息を止める。

気配だけを取り出してたずねてゆくことをあんまり繰り返し重ねたから、それはくっきりときわだち、そのうちひとり歩きするようになった。

あのまちを歩くとそこここでそういうものにぶつかっていた。
影を残すときにすでに覚悟していたものから、思わぬ副産物のようなものまで点々と。
油断のならないちいさなトラップのように、見えないわたしの足を射た。

けれどようやっと角がとれた気がする。
頻繁に引き寄せられなくなった気配たちは、ただ同じ時を繰り返している。
魔力を失って人間に悪さができなくなった妖精みたいに。
終わらない夢をみているのは、わたしじゃなくてその気配たちなんだ、
と、今は思う。