* 淡路島日記/イカ



イカを釣っているお兄さんに出会った。
イカは陸にあげられると途端に黒い墨を遠くまで吐き出した。
まだだれもそばにいないうちに吐き出したから効果がなかった。


お兄さんは言葉少なだった。
急に話しかけた女の子3人に驚いたのかもしれない。
それでもちゃんと写真を撮らせてくれた。


イカはからだの表面にレンガ色の斑点を浮き上がらせたり縮めたりしていた。
白い部分は貝の内側のように虹色に光っている。
まるで夢で見た宇宙船の壁のようだ。

お兄さんは目の近くのところを鋭い錐のような道具で突き刺した。
途端にからだの右半分の色がしゅうっと消えていった。
電気が落ちたみたいに。
風船がしぼむみたいに。
ざわめいていたもう半分も、左目の近くを刺すと同時にこときれた。
こときれた。
そのことばが一番ふさわしい。

ちからなく投げ出された足。
いままで生きていたことが懐かしかった。
おかしな表現だけれど。


たこつぼ、フナムシとの再会