* とんぼ



踊っている時に一度だけ、あげた手の指にとんぼが止まった。
とても驚いて少しの間止まってしまった。
目を見るとわたしの顔をじっと見て、ちっとも動揺している様子がない。ちゃんと確信があってここに止まってくれたんだ、と思う。
ゆっくり動いて手をまわし、全身を見る。
緑色と茶色に光る目、からだの節々、きらきら太陽にあたためられている翅。
空を背景にしたり海にのばしたり影をかざしたり。
ずいぶん長いことそうしていたけれどとんぼは飛び立って、すぐに他のとんぼたちに紛れてしまった。
どんなに指をいっぽん立ててじっとしていても止まってくれなかったのに踊って動いている時に止まってくれるなんて。

なんだかこの場所に認められたみたいで嬉しかった。