* 『鍵のかかった部屋』 ポール・オースター

“突然、ファンショーが僕の人生の中にもう一度姿を現わした。だがその名が出たとたん、ファンショーはふたたび消えてしまったのだ。”

“両足が穴の底に触れると、ファンショーは顔を上げてちょっと僕に微笑みかけ、それから仰向けに横たわった。まるで死んだふりでもしているみたいだった。僕はいまもその情景をありありと思い浮かべることができる。僕はファンショーを見下ろし、ファンショーは空を見上げ、顔に落ちてくる雪を払いのけようと眼をぱちぱちと激しくしばたたかせていた。”

“人と人とを隔てる壁を乗りこえ、他人の中に入っていける人間などいはしない。だがそれは単に、自分自身に到達できる人間などいないからなのだ。”

“考えてもみるがいい、呼吸をすることによって、自分を氷の棺おけの中に閉じ込めてしまうのだから。”


読みながら何気なく付箋を貼ったところを抜き出してみて、はじめて私がこの本から蒸留していたものごとに至った。
私が発見したわけではなくもちろんこの本の題名にもはっきりとなっていることなのだけれど、でもなんの意識もなしにピックアップした部分だったから、自分なりの発見があった。
そのちいさな箱に相反する状態が同時につまって進行していること、せめぎあっていること、移行すること。
矛盾が矛盾たりえなくなること。


鍵のかかった部屋