* 場所の記憶



高校生のときは練習する場所がなくて、中央公園でいつも踊っていた。
雨のときには都庁の空いてる部屋とか、このセンタービルの通路で。
警備員さんに叱られたり、仕方がないなあという感じで防犯カメラに写らないようね!と許してもらったりしながら。
私が全然おうちに帰らなかったのはぐれていたからじゃなくてほんとうに踊ってばっかりいたからなんですと両親に言いたい。

そしてここはそのなかでも特別な場所。


ここを通るたびにあのときのおんなのこが小さく膝を抱えているのが見える。
ずっとふくらませていた期待はただの思いすごしだったと知って、胸を痛くしている。
タオルで膝をはらってくれたときのことを思い出す。
ながらく動かなかった空気がおなかのそこで動いて心臓を押す。
もがいても抜けられなかった悪夢が少しずつ記憶の底に沈んでいって、やっとまた世界が色づきだした。
そうだ、あのときから。
憎むことも恐がることもやめて帰って来る気になったんだっけ。
だから、それだけでよかったんだ。
だってこうしてちゃんと毎朝目覚められるようになったんだから。
けれど目の前が翳ってふわりといい香りがして、なんで今となりに来るのだ、と思う。
よけいにきりきり痛くなるじゃない。


永遠に繰り返されている。
もしかして私が通りかからなくても、覗き込まなくても、その幻は繰り返しているんじゃないかと思う。
ひとりでいても、そのいい香りと一緒でも、通りかかるたびに鏝で重ねるようにこの道に覚えさせたから。