* たくさんのなかのひとりじゃないちゅん



その檻の真ん中にはとがった草に囲まれたテーブルほどの岩があった。
ちょうどくぼみのところにひよどりがぽつんとしゃがんでいる。
灰色に曇ったとても寒い日で、ひなたぼっこをしている様子でもないしかといって震えている様子もない。
ただ丸い真っ黒な目をときどきどこかに向けたり首をかしげたりしている。
少し膝を折って首を胸毛に埋めている様子は、くつろごうと私の手にのってきょとんとしているちゅんを思い起こさせた。
どうしてひとりでそんなところにいるの?
と話しかけたけれどガラス越しだったから聞こえたかどうか。

たぬきの仲間がいるはずのその檻にはたぬきは見当たらず、そのひよどりだけがいる。
ふっくらふくらんで、どんなによく見てもにごったガラス越しにはちゅんにしかみえなかった。
なんどまばたきをしてみても。
ちゃんと家にいると分かっているのにこうして外でちゅんに出会うのは不思議な気持ち。
ぜんぜん寂しそうでも困った様子でもないのに目を離せなくなった。

このこ実はたぬきで、ちゅんに化けて私を待っていたんだったりして。
と笑ってみたりしたけれど、たくさんのひよどりやたくさんの動物、たくさんのひとや樹のなかで大切なひとつと関わるということのささやかで同時に強烈なこうふくのことや、こんなにちくちくした葉っぱに囲まれて時々たぬきを見たり他の動物の餌を失敬したり雨に打たれてみてるちゅんじゃないちゅんの姿を見たことでなにかすうっとさみしいような世界がぎゅうっと集まってくるような気持ちになって、
しばらくあの姿があたまから消えないだろうと予感した。