* もうひとつの世界はにせものなのかどうか。



私の夢には、にせものの本がよく出てくる。

たとえばわたしは図書館にいて、たくさんの本に囲まれている。
古くて暗くて表紙の皮やあたたかい埃のにおいのする部屋。
ぐるりと見わたすかぎりの本のひとつを手にとって眺めてみると
「げP9どょBQそるさ6N」
とか書いてある。
ああ、夢なんだ、と思うと同時に夢は急速に私から遠のこうとする。
覚醒するまで夢を楽しみたくて一生懸命目を凝らす。
どの本にも意味のない文字の羅列。
ページをめくってみても、全部そんなふう。
たくさんの本を見回す。
いろんな色に包まれたいろんな大きさのこの本たちは、実在しない。
お芝居のセットみたいに、そこには体裁として本らしきものがあるだけ。

いったい誰が、なんのためにわたしをだまそうというのだろう。
これは私の夢なのに。

脳みその一部はボタンのない洋服を着せてしまった惑星ソラリスみたいに、わたしのための世界をつくろうと日々ふつふつとアイデアを練っているのだろうか。

私が思ってもみないものがたり。
考えたこともないデザインの帽子。
振り付けを手伝ってくれたことも。
知らない言葉。
新しい知識。
初めて目にする色。
ひとの死も夢で味わった。


そういえばソラリスの、懐かしい実家のなかに雨を降らせるシーンが好き。