* 『非現実の王国で-ヘンリーダーガーの謎』

原美術館にヘンリー・ダーガーを観にいったときに圧倒された。
作品の異様な雰囲気にももちろん圧されたのだけれど、あんなに膨大な量のものが誰かにみせるという目的もなく製作され、長年息をしていたということに。
彼の頭のなかで生まれ編まれていった世界は彼の前にだけ繰り広げられていった。
その王国に生きる登場人物はどんなにか幸せだったろうかと思う。
一方で彼がそうして大量に産み出すこと、大量の同じ顔・姿(に見える)女の子たちを描くことを考えると、少し、今いる場所からちょっとずれた場所に浮かんでしまうような感触を覚えた。
どれだけの熱心さで彼がそれを増やしていったんだろうかとも思うし、もしそれ全てに愛情を注いでいたのだとしたらそんな膨大なものは私にはとうてい背負いきれないようにも思うし、そんな彼の後姿は異様だしまた、なんだかうらやましいような気がするのだった。

映像はとても凝っていて、ダーガーの絵の世界をアニメみたいに動かしている。
はじめはちょっとそのことがあまり好きになれなかった。
ダーガーの作品を知りたいという気持ちもあって見たから。
素敵につくりこみすぎている、と思った。
どこまで作られたものなのかわからなくて、このノートの切れ端はほんとうに彼の自筆なのか?この乾いた絵の具のかたまりは実際に彼の部屋にあったものなのか?ということをいちいち考えてしまった(最後まで見てみて、おそらく全部がほんものなのだろうと感じたけれど)。
けれど最初のその印象は最後にはすっかり影をひそめて、よく動かぬ絵をここまで動かしたな、と感心してしまった。
そうか、展示じゃなくて作品にしているんだな、と考えたら合点がいった。
ダーガーの作品をつかってまた作品を創る。
それはそれでとても素敵だ。
ガラス戸越しに雪を見ている女の子と闇の絵がとてもよかった。
あんなふうに透明感を出せるんだ。

ダーガーの色使いが好きだ。
びっしり埋まっている画面が好き。
ちょっと油断したら震えてしまいそうな線なのに確かな意思があるところが好き。


非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎