* そらをとぶ幻



『tokyo.sora』のあの明け方に突っ走るシーンを見た。
以前見た時にはどうしてもまっすぐ受け入れられなかった。そこに作られた状況や感情はいちいちこころのどこかをつっついて、なにやら恥ずかしいみたいに眉をしかめさせた。
カメラ日和に出てきそうな可愛い色の絵、けれど世界はそこにどぎつい染みをにじませる。そんなにそのコントラストを強調しないで。ものがたりにしなくてももう知ってるから。そう言いたくなった。
けれど昨日そのシーンを見て、何かが変わったことを知った。
思い出せるのは水に落とした藍色のインクみたいに浮きたった孤独の時間。いつもひとりきりで夕闇を迎えたから淋しいと気付かなかった。空ばかり見ていたから胸が塞がっているなんて思いもしなかった。
きっとうらやましかったのね、と思う。
今となにが違うのかは分からない。


ホームの向こうでどこか一点を見つめている女の子は私を知らない。
きっと二度とすれ違わないかもしれないと考えることも、もちろんない。
けれど私は彼女が去ってもしばらくその姿を目の奥に残しておくこともできるし、そしてここに書き留めてまでいる。
あの女の子がこれから長いことかけて地球にどんな図形を描くのだろう。
今の一瞬だけしか見えないでよかったのかもしれない。かきわけられないいばらのように時間が留まって邪魔をするから。


ほんとは全身で飛び込んで飛沫なんか忘れて泳ぎたい。
その願いとのギャップ。
飛び越えるんじゃなくて埋まらないと気付いてもいいから味わいたいんだった。

泳ぐ夢はいつも夜だし、呼吸する水は甘い。