* 『赤い風船/白い馬』



『赤い風船』
ブルーグレーのパリの風景はいつかどこかで見たことがあるような気がする。
この階段を降りたことがあるかもしれない。この建物の角を曲がったことがあるかもしれない。
そんなふうに思わせる、どうしてか懐かしい色。
そこに浮かぶ赤い風船の可愛らしいこと。つややかでおちゃめで元気いっぱいで、表情もなにもない風船がこんなふうに演技をするなんて。
しかしどうやって撮ったのだろう。CGかあ、って安易に考えそうになったけれど50年も前の映画なのだ。
そして主人公の男の子が可愛い。(監督の息子さんらしい。途中出てくる少女は監督さんの娘なんだって。ふたりともとっても可愛い)
最初の風船を取るために壁によじのぼるシーンとか子供たちの追いかけっこのシーンとか、落ちたり怪我をしたりしないかとはらはらするシーンがある。
でも子供ってこんなものだ。
子供が危ないことをしているシーンに対する耐性が弱くなっていることに気付く。
細い路地を走るシーンが好きだ。

『白い馬』
白い馬がほんとうに美しい。
湿地のような沼のようなところを走るのだけれどそのときに長いたてがみが濡れてからだにはりついているのがなんだか色っぽかった。
少年も白い馬と同じように少し目にかかる前髪をしていて、そこからまっすぐなひとみが覗く。
馬は全身に生きていることをみなぎらせていて、人間が押し隠してしまったものはいったいなんなんだろう、と考えさせられた。
馬同士が喧嘩をするシーンはお互い血が流れるくらい本気だったし、少年が馬をとらえようとして湿地のなかを引きずられるシーンも壮絶だったし、あんな風に演技をさせられるものなのか、それともそういう場面をとらえることにちからを注いだ監督だったのか。
力いっぱい走る馬のからだじゅうの筋肉も、少年をゆるす目も、息をのむくらいそのままだった。
鞍も鐙もなく馬に乗る少年もすごく綺麗。
私も馬に乗るならやっぱりはだかうまに乗ることにしよう。
少年の弟役の子がまた可愛くて(女の子かと思っていた)小さいのにちゃんと演技をしていることが不思議だった。
あとから『赤い風船』の子の幼い頃だと知って驚いた。
そういえば、馬が藁を食べたことを喜んだときのしぐさに面影がある。

どちらもストーリーなどはとてもさもないのだけれど、ぽつんとこころにいつまでも色や躍動感を残してくれた。


赤い風船/白い馬【デジタルニューマスター】