そのあとのお話



うんと早い時間まで起きていた。
一日が始まるのが空が明るくなる4時くらいだとしたら、うんと早い時間、と言うのが合っている。
車の音よりも鳥の声が勝つ時間。

ベランダを開けて町を見たら霧がたちこめていたらいいのに、と思う。
鳥は羽根が雫で重たくならないようにぴったりと背中でたたんで、犬の息と自転車は近づくまで馬車かもしれないって思うくらいのしっかりした霧。
ちいさい頃は起きたまま次の日を迎えるなんてとても怖いことだった。
あるとき本に夢中になって空が明るくなっているのに気付いて、夜通し読んだ本のその文字のひとつひとつはどこに仕舞われたり、置いてゆかれたりしたんだろうとい気持ちになった。


去ってゆくものの背中を見ることがつらくてたぶん、今まで色んな言い訳をつけて増やしてきたんだろう。
理由もなく去ってゆくんじゃなくて、理由がなかったからそういうことになった。

顔のあるものは全部こころがあるように思って、家じゅうの顔のあるもの全部に名前と誕生日をつけて一緒にお布団で眠って、寝苦しくて、目覚めたらほとんど蹴散らされていた。


昨日の夕方の雲は水辺の大理石みたいな色だった。