早苗ちゃんの受注会にて



縫いものはむかしから苦手だ。
スタジオに勤めていた頃には毎年衣装を手縫いした。
バレエの衣装も自分で縫う。ティアラもつくるし、お花やスパンコールもつけて。

縫うのは遅くないし下手ではないけれど、下準備をすっとばすからかからなくていい手間がきっとかかっているしときどきとんでもない間違いをしたりする。
一度自分の作品の衣装で、全然伸びない布とすごく伸びる布をデザイン重視で組み合わせたらとても処理が大変で、生徒さんみんなをたいへん苦労させたことがあった。






そんな自分とまさか比べるわけではないのだけれど、早苗ちゃんの手にかかった布たちはしあわせだなあと思う。
丁寧に吟味され、丁寧に見つめられ、丁寧に縫われ、包まれる。




もう何年も布と接してきているのに、もしかして早苗ちゃんの中で布への気持ちというものは、布をはじめに扱うようになったころからそう変わっていないんじゃないだろうか。
その素材を知っているのだという馴れ合いのようなものがなくて、たえず、まっすぐ視線を同じくして憧れたり驚いたり定めたりしているような。
そういう姿勢に、職人だましいをも見た気がする。


踊らないときにもずっと会場にいてストレッチをしていた。
服の下がる会場は、おおきなソファが似合うような、ちょっと不思議にくつろげる空間だった。
隅にいると不思議と大胆にストレッチをしていても馴染んでしまうかんじで(って、それはやっぱりスタジオに似ているからであって、一般の方はやっぱりぎょっとしていたのだろうか?)。

ストレッチをしながらお客さんやいそがしく働く早苗ちゃんや長嶋くんを見ていた。


ひとり、誰とも離れて、一着いっちゃくを触れながら真剣な顔で見上げている方がいた。
そしてふいに全体を見渡し、にっこりされた。
あまりに愛情に満ちて幸せそうな。
その方から目を離せなくなった。
なんと言えばいいんだろうな、ほっとしたような、でもやっぱり自分が思っていたことよりもずっと素敵なことを確認したような、うーん。一番近いのは、もしかしたら赤ちゃんを見るみたいな・・。
この方はきっと早苗ちゃんをずっと教えてきた服飾の学校の先生だろうと最初に思った。
教え子がこんなにも気持ちのいい服をつくっていることへの喜びや愛情。

でもしばらく見つめているうちに、もしかしてお母さんかな、と思った。
それは服を触れる手が、作品としての服に触れることに慣れている手じゃなかったから。
先生じゃなかったらお母さんに違いない、と。


やっぱりお母さんで、そのあとお父さんや妹さん(やその彼氏)にもお逢いできた。
お父さんとは少しながくお話もした。

早苗ちゃんの日記にたびたび出てくる家族のかたがた。
なんだか嬉しかった。

早苗ちゃんが働いている姿を見ることも、その向こうのお友達と話している姿も、嬉しかったなー。