夢/喧嘩、鳥の産卵、椿の町

夢。

外国にくる前に恋人と喧嘩をしたことを急に思い出す。
(実際はこいびとではない、仲のよいダンサーの友達がなぜかそのひとだった)
今まで喧嘩をしたこともない、いつもにこにこ優しいひとをどうして怒らせてしまったのか全然思い出せなかった。
でも別れる直前に何かいけないことを私が言ってしまい、彼が向こうを向いたシーンがあった。
「怒っている?」と訊こうとしてきけなかったことも覚えていた。
もうずいぶん長いことメールがないな、と思い出す。

私が遅く起きすぎたのか、家にはもう誰もいない雰囲気だった。
コンピューターを開くと画面の文字がやたらと大きくて、全体を見ることができなかった。
どこか端っこがいつも隠れて読みづらい。

外に出ると日本の団地のような感じだった。
でも景色は農村のような。
緩やかな黄土色の土地、くねくねと続く畑と畦道。
子供が都会の公園で遊ぶようにそこにいて、奥さんたちもそれを遠くで見守りながらお喋りをしている。

私は裸足で脇の道を歩いていた。
道にはたくさんの花が落ちているのか咲いているのかしていて、足の裏にそれが冷たかった。
道の途中でちいさな鳥の産卵の手助けをしているおじさんと会った。
トビコくらいの透明な薄い膜を持った卵を、その鳥は1年に1回だけ産みにくる。
産んだ卵をおじさんがくちばしに渡すと、ひとつひとつどこかに運ぶ。
でもひとつは地面に落ちて割れ、ひとつはおじさんがうっかり手の上でつぶしてしまい、もうひとつは鳥がするどいくちばしで挟んだとたんに潰れてしまった。
鳥にとってもおじさんにとってもこの1年がうっかりと無駄になってしまったことに辛い気持ちになる。

いつのまにか歩きながら泣いていた。
子供やお母さんたちが見ているのにどうしても悲しくて泣きやめなかった。
花を踏みながら足の裏がひんやりするのと、寂しいことが一緒になってからだをのぼってくる。
あのお姉ちゃんにこれをあげなさい、とどこかのお母さんが言って、ちいさい子どもが私を追いかけてくる。
手に花を持っている。
この土地には地面を這って生える椿があって、いつのまにか私の足元はその椿だらけになっていた。
太くて黒い蔦が地面をステッチのように飾って、鉄砲の弾くらいの形と大きさの大量の種が飛んでいる。
ざらざらとその種を踏みながら耐えられなくなって立ち止まって泣く。
そばに子どもが椿を手に、わたしを見上げていた。