セントラルパークで凍える

『ムーン・パレス』をセントラルパークで読もうと思って持ってきたのだけれど、寒すぎてそれどころじゃなかった。
だんだん指が凍って動かなくなってフィルムの入れ替えも苦労するようになった。
たばこもうまく巻けなくて火をつけてもぼろぼろと風に吹かれてしまう。
時々太陽が顔を出すと至福のようにあたたかい。
すぐ厚い雲がからだを冷やす。
ホットチョコレートをスケートリンク場のそばで買って、ひなたに座って飲んだ。
プチブルドッグがひとなつこく私の顔を覗き込んであたたかい脇腹を押し付けてきた。
可愛いなーと体重を感じていたら飼い主がごめんなさいね、と引き離した。
セントラルパークにはりすがたくさんいた。
鳩みたいに普通にがさがさしている。
ホットチョコレートを飲んでいたら(そうだ!ホットチョコレートにあの有名な?ホイップクリームが乗っててちょっと嬉しかった。すんごくからだに悪そうだけど)、しゅるしゅるとりすが椅子に登ってきて私のホットチョコレートを狙った。
私の顔をじっと見たり手元を見たりして、わたしのほうがどぎまぎしてしまう。
するとプチブルドッグがりすを見つけ、わー!!って感じで追いかけていってしまった。飼い主が犬を追いかけるし、大騒ぎ。

いつのまにかショコラが冷めていて、からだも相当冷えていた。
立ち上がろうとしたら足が思うように動かない。
帰りのバスのカードをだそうとしても指が動かない。
ジャック・ロンドンの『火を熾す』を思い出した。

とにかくあたたまりたくてバスに乗って見知らぬ区画まで乗せてもらった。
ストリートの名前がなくなる、グラウンドゼロのあたりまで。
折り返しのバスをさがすためにまた歩いて、いっこうにほかほかになってこない。
48thストリートの8Avn.で小さいカフェ兼ご飯屋さんをみつけてカプチーノと濃いチーズケーキとけしの実のパン。
川口さんから電話があって合流して少しほっとする。

ひとつ面白かったのは、テーブルの上がなかなか片付いていかないのだけれど、そうしたらとある男性が知らない女性に向かって目の前に座っていいか、と言い出してすごい狭いテーブルの差し向かいに座ったこと。
机の上に前のひとの食器が片付いていないというだけでほかのすべてのテーブルが空いているのに、そっちを選ぶんだ!とびっくりした。
美しい黒人女声だったから新しいナンパかなと思ったけど終始ふたりとも自分の作業をもくもくと続けていた。

一日からだを冷やしたせいで帰っても震えがとまらなくて、眠気がすごかった
このまま寝たら熱がでるようなからだの芯のゆるみがあったのだけど負けて寝てしまった。
その日は向井さんのライヴに行く予定だったから川口さんは何度も起こしてくれたんだけどほとんど記憶なく眠っていて、はっと起きたときにはライブに間に合うか間に合わないか、の時間だった。
明日のほうを聴きにゆくことにしよう、ということになってそのまま深く眠った。