夏はいつもいさぎよくいってしまう



朝方、さむさに目覚めて布団にくるまりなおすのが好き。
空が高くてにおいをかぐのに背伸びをしなきゃいけないのが好き。
グレープフルーツじゃなくて梨が食べたくなる。
そろそろかおってくる金木犀。
台所から聞える炒めものの音がちょっと近くなる。
そうだな、なにか、身にひきよせたくなるとき。

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稽古がはじまるまで近くの公園のブランコに座っていた。
雨のあとで少しおしりが濡れたけど稽古着だから気にしない。
4方向にスピーカーのついたポールを見上げながら、もう今日はここから音楽や放送は流れないのだな、と思う。
そんなことを考えているあいだにもどんどん空は暗くなって公園のみどりに沈められていく。

なにかが落ちてきて足にぶつかった。
見下ろすと靴にさるすべりの花がのっていた。
雨のなごりをのせて。


見送るまえに夏はいってしまった。
いつも、そう。