memo/鏡遊び、盲目の少女、橋のへり、自転車、傘のいえ



そろそろとすすむ。とてもやわらかい足で。
見えているのにそこにないものと、みえていないのにそこにあるもの。
透明な足先が透明ななにかに触れる。
そうしたらおおまわりで避ければいい。
電気をまたぐ。
越えたさきはまた、慎重に。
電球を囲む木の枠のせいで、それはちょっと未来のストーブみたいに見えた。
触れようとするけど、そこにはない。
ないことと、あることが交差してもうひとつ表面は繊細になる。

目を閉じたとたんにもうひとまわり大きな壁につつまれたようになる。
あたまのなかには地図があってそこはたいらだ、と知っているくせにとたん世界中の障害物がせまってくるような。
けれどほんとうは、そんなにはこわくない。
顔の皮膚で感じる影がたよりだ。

影を落としているのは隣町との境にある橋だった。
車道からひとが歩く道に繋がって、胸くらいの石の段があって、土や芝生や松が植えられていて、そして橋を支えるごつごつとしたコンクリート。
見上げているうちに橋の裏がわはわたしの足元にあった。
怖いのになにかにかられるみたいに、儀式みたいに、橋の外がわを伝って隣の町まで行こうとした。
いつも途中でくじけて引き返すのは下に車が通っていたからではなくて、自分と地面、自分と空との距離がわからなくなるからだったのかもしれない。

見ることに縛られている。
みえることにしばられている。
目を閉じるとひとはまっすぐ歩くことが出来ずに円を描いてしまうんだって。
それはからだがまっすぐではなくいくぶんかたむいているからだろうか。
まっすぐとゆがみがちょうどつりあうと、たぶんずっと同じ円を描くことになる。
ちょっとずつ毎日つみかさなるゆがみがそこに導く。
めちゃくちゃに走ったら、どこにいけるんだろう?
それはからだにしばられていることなのかな?
そんな気はしない。
空は青くて見えないところまで広がっているし、雲もくっきり、世界のどこにでも自由にわくんだから。

広い空を閉じ込める。
わたしの手の届く範囲に閉じ込める。
たくさんの星のなかに地球が浮かんでいるなんてよくわからない。
わたしが座っているところはまっすぐだし、そらはまあるく包んでいるから。
からだのまわりにおうちみたいに空をつくって、天辺で封印をする。