白昼夢



電車に乗ってうつむいて目を閉じていた。
どうも熱が出そうで、けれど用事がもりだくさんだから休んでいる場合じゃなかった。
うとうとしそうになりながら、でも今がどの駅とどの駅の間だかは把握していた。

白っぽい名前の駅のすぐ近くに大きな総合病院があって、わたしはそこに向かわなければならなかった。
見舞う相手はどこかの編集長だか、プロデューサーだか、とにかくちょっと偉いひとだった。
目を明けててのひらをみつめながら、どうしてこんなに熱の前兆で冷や汗をかいているのにお見舞いなんかして大丈夫だろうか、とどきどきする。
けれどそのひとが待っている気がした。

電車が加速を弱めて駅に着く。
私はただ写真展の写真をとりにゆくところだった。
お見舞いをする予定はまったくなかった。
入院しているひとなんていなかった。
顔まで浮かんでいたのに、名前も知っていたけれど、ほんとうには知らないひとだった。