いまいちばんの贅沢



ただゆっくり歩いて、目に見えるものをそのまま眺めたい。
コンクリートを割って出た緑の茎も、流れてゆく雲の影も、風も、みずたまりも、すれ違う蜂も。

何かを見逃してはいけないというどきどきにも追われずおしゃべりにも夢中にならず、
そこにある時間にただ、ねじを合わせたい。
たくさんのおくりものはなくてもいい。
そのものらしい重み、流れるあゆみに凭れ、まかせてみたいだけだから。

普段は、たいていのことからちゃんと味わわずに立ち去ってしまう。

こころを残しながら歩みさる道すがらそのことを考えるのもいいものだけれど、
いつもは見ることのできない絵を見るようにあちこちから眺めて
自分のものにしたような気持ちになりたい。