残香



ものや場所やひとや、自分が接するものに対して深い思い入れを抱かずにやってきたように思う。
気が散ってぴょんぴょんと映ってゆくこの気質は、あちこちを点々と移り住んだことにも影響されているのだろうか。

いつもこころ惹かれるものには時間を止められた。
けれどすぐ自分の時間が勝ってしまう。
流される葉のように、後ろも振り返らずあたらしい色をうつしながらはしる。
でもときどき、夢で何度もおなじ景色を見るように、こころに残された像がよみがえる。
もういちど手に取って、ぬくみを味わってみる。
記憶をたぐりよせそこをふたたび訪れて、今度はわたしを、その過去の時間に置いてみる。
そうしてはじめて体温をわけあう。
またいつでも取り出せるようにそっと、ふたをする。
まるで惜しむことでしか大切にできないようだ。
一度失わないことには懐かしめない。
その過程を、出会ったときからわたしはやろうとしている。