* しずく



未来も過去もおなじことなんだよ、ということばをときどき思い返す。
感覚のどこかで知っていたそのことを、ただの空想に終わらせないでいられることにほっとした。
時間の向かい風に鼻先を向けてたえず進んできたから、そのうちのなんにんかは潜るようにさかのぼってもかまわないだろう。

いい加減なことを書きたくない。
ただ感覚にまかせて色をのせてゆくこともやめないけれど。
もっと密にしてゆきたい。
時間も、知ることも、受けとることも、発することも。

自分のからだからこころにかけての反応、そのひとつづきをじっと見つめて分析して、いろんなことを自分なりに発見してきたような気がする。
誰かに教えてあげられるほどのことじゃない。
自分だけに感じられる、皮膚の上1ミリの体温みたいな、そんなささやかな。
ちょっと動いただけで逃げてしまう。
日が翳っただけで動かされてしまう。
こんなに儚くて、思い出そうとするとするりと抜けていってしまう夢みたいにつかみどころがないもの、それこそが、それだけが、自分にとって確かなものとなっているかもしれない。
だからいつも不確かなまま、固定せず、熟すこともない。
ずっとこれを確かにしたくてあちこちからつつきまわしてきたんだけど。

このごろそういうことをちゃんとことばにしてあるものにいくつも出会うようになった。
私が霞のままこねくりまわして途方に暮れているそのことが、拍子抜けするくらいに簡単なことばに変えられて、なにげなくそこに置かれている。
こんなに溢れていたっけ?と軽く愕然とする。
わたしが苦心してひねり出そうとしたことはもうとっくにたくさんのひとたちによって解明されているじゃない、と。

今までもこのことば、この言い回し、こういう考え方にはとっくに触れていて、わたしも知ってはいたはず。
けれど、やっと集められてひとつの露になったように、そういうことばたちがしっかりと手ごたえをくれるようになった…気が今少ししている。
どうせまた繰り返すのだろうけど。
霧のなかを歩かなかったらきっとこの小さな水滴も集まらなかったんだろうな。
けれどどうしてこんなに回り道をしなきゃだめなんだろうわたしは、とちょっと可笑しくなる。

少しでも響くものには深く耳をかたむける。
きっとこの雫も放っておいたらすぐに蒸発してしまうんだもの。
何度、気付きがきたと思ってもやっぱり繰り返し彷徨っている。
まみれるしかないんだな、きっとスマートにはいかない。
効率なんて全然よくなくていいし、忘れることも今は恐れないでいようかな。