* 『パリ・オペラ座のすべて』

舞台で踊ることももちろん好きだけれど舞台の裏側自体が好きだ。
楽屋の入り口も、楽屋の外や袖に用意されているバー、緞帳の裏、降らしものを切ってくれているスタッフさん、一服する時間、トイトイトイのお菓子、楽屋のお化粧やアイロンのにおい。
カンティーンでお総菜を選ぶこと、ときどき演出家や歌い手さんと一緒に食べたり。
とこやまさんの部屋に並んで子役の子と話したり、袖でオーケストラの調律を聴いたり。
すっぴんで大きな荷物をひき本番に向かう時、たいてい街の流れを逆流することも。

ヨーロッパにいった時にいくつかのバレエ団やダンスカンパニーの舞台裏や稽古にお邪魔した。
舞台の合間のカンティーンや雑然とした楽屋、汗と霧のような熱気をまとった友人たち。
そんなふうに生きたいなあと思うと同時にいかに自分と彼女たちの意識が違うかということにも気づかされて。

ダンサーが職業として認められていることをただ羨やんだり、日本は芸術にお金をかけてくれないから…と嘆いていてもはじまらなくて、そこにはお金を出してもらうだけの説得力がなければいけないのだ。

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オペラ座は40歳が定年でそれからは年金がもらえるということに驚いた。
カンティーンの食べ物が豊富なことに驚いた。
『ジェニュス』という作品という作品がすごくよさそうで見てみたい。
サシャ・ヴァルツがオペラ座に振付けしたなんて知らなかった。ロミジュリもおもしろそう。
男性の音へのからだの乗せ方に惹かれる。
でも先端の細部は女性。
幹の細部ややわらかさは、男性がもしそれを持っていたらものすごい魅力。

「ダンサーは競走馬でありながら騎手、レーシングカーでありながらレーサー」ということばが印象的。
とてもよく、表していると思う。
アーティストであることとプロのからだのつかいてということと、ビジネスのこと…
夢や美しいものをつくりあげる完璧を求めるうらがわのこと。