* 踊る、雛の死

踊る場所でだけは、私は地に根を生やして生きてゆけるのだろう。
ここではすっかり安心していられる。
私が踊りをすっかり手に入れた、なんて思っているわけではもちろんない。それどころか途方に暮れることばかりだ。今だってもう明日が本番なのに全部ができあがっているわけでもない。それなのに舞台に立つことが待ち遠しくて仕方がない。
受け入れる覚悟があるからなんだろう、いいことも悪いこともすべて。
だからその代わり、踊りは私にそこにいていいんだという場所をくれたんだと思う。

ピナ・バウシュさんが亡くなって、なにかを受け継いでゆく責任が自分にもあるのだということを漠然とだけれど以前より強く考えるようになった。
私には何もできない、と逃れてしまえばそれで終わり。
だから、私ができることはなんだろうと考え続けている。

暇さえあれば星野道夫さんのアラスカの本を開いている。
そこにはただ生きることと、生きものとのあいだとのことだけがつづられている。
生きることからすべては発生している。ルールも物も、そこには長い時間と意味が含まれながら存在しあたためられる。
一生を、生きるために費やす。当たり前のように聞こえるけれど私(もしかしたら私たち)が見失っているのはそのことなんじゃないかという気がする。
ひととちゃんと関わりたい、自分の足元を耕す…そのことに対する答えがここにいっぱいつまっている。きっと。

ふと、日本のなかで芸術と呼ばれているものっていったい何なんだろう、と考えた。
生きてゆくことに直接関わるのか?とか、自分が携わっている踊りや写真がなにを世界に還してゆけるのだろう?ということから派生して。
私の踊り、踊りたいという気持ちはいったいどこから生まれているんだろう。
祖母が実家のお能台で踊るひとだった。
父方は屋久島にルーツがある。
古い、生活に根付いた踊りが血の中にあるんだろうか。
わからない。
きっと生活が変わった今、踊りのありかたや発生のおおもとも変化しているんだろう。
だからどこにもしがみつかなくていい。
頼りたいときには頼ればいい。
そのためには向き合って、知ろうとしなきゃいけないんだろう。
私がその中に価値を感じているのだから。

+

夏の終わりごろ、いつもの帰宅の通り抜け道に鳥の雛の死骸を見つけた。
雛はもうすっかり乾いて道路に馴染もうとしていた。
辺りはだいぶ暗く、私は跨ぐまで雛の存在に気づかなかった。
視界に入りその雛の上で私は打たれたように立ち止まってしまった。
それからしばらく私はそこを通るたびに死の記憶のようなものにとらえられた。歯をくいしばらずには過ぎることができなかった。色と呼吸を失くした時間。
けれどある時ふと、あの雛の死を知っている私は、あの雛の生も知っているんだということに気づいた。
親鳥と私だけが、雛がこの世に生まれてきたことを知っている。
だから私はみつけたんだ。
だから、一緒に連れてゆく、と思う。

私にとって踊りや写真はそういうものでもあるんだという気がする。
慰撫や鼓舞を含んで、一緒に生きてゆこうと手を広げること。

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明日と明後日、新宿のスペース・ゼロで踊ります。
まだチケットがありますので是非いらしてください。
当日券も出ますので、直接きてくださっても大丈夫ですよ~!
チケットのお申し込みは私のメールアドレス
Chloe_bitter_sweet[at]yahoo.co.jp
までお気軽にどうぞ!

場所:全労災スペース・ゼロ(新宿駅より徒歩7分ほど)
日時:10/19(月)・20(火) 19:00~
振付/演出:佐藤宏
出演:伊藤さよ子 依田久美子 近藤舞 朝弘佳央理 岩沢彩 堀内麻未子 竹内春美 布目紗綾 武石光嗣 増田真也
チケット:全席指定5000円

■ラ・ダンス・コントラステ