地底に残されたみずうみ



きっと手放せなくなると思うよ、とわくわくしながら録画していた映像を見せてくれたことを覚えている。彼はそんなふうにどこからか私のこころを掴むものを持ってきては、わたしの世界に投げ入れてくれた。
アフリカのそれだったのか、メキシコのそれだったのか。

潜水服を着て迷子にならないようにロープを持って潜る。
洞窟と洞窟をどう繋いでいて、次いつ水面から出られるかわからない。
水中は透明でまるで空気みたい。
見上げた銀色の水面だけが光を曲げていて、さかさまの重力で天井に水がはりついている。

こんなに澄んだ水があるのか、と思った。
光と出会わないからこんなに透明なんだろうか。
深く閉ざされて暗く、誰にも見られたことがないから。
静かに冷えてぞっとするほど時を止めて、絶対のことを思った。
暗闇を遠く見通すことはできるけれどそれに染まっているわけではない。
そこには何もなくてだから、ぜんぶがそのものだった。

私はたぶん少し閉所恐怖症なんだと思う。
だから閉じ込められるということ自体がひとつの魅力なんだろうと思う。
あんなに澄んだ場所に。
地底深くに続く穴に、さらにそこを満たす水に、光からも空気からも、予想のようなものからも離れて。
考えると息苦しくなる。
でもすごく惹かれる。

水面から光が降りてきているのにその向こうに透けて見えるはずの空は見えない。
きっと外は光に溢れているはずだから銀色の水面は透けてその向こうの光も見えるはずなのに、水面は真っ暗なままだった。
暗闇の映った水面から突然太い光の柱が貫いている。
あまりに澄み切っていて水面が底の闇をそのまま映しているからなんだろうか。
光は煌いて波に泳いでいるのに、そこだけ時間がなかった。