* ひそやかなけっしょうのこと



今読んでいる本がとても『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を思い起こさせる。
失われてゆくものの、失われえないおはなし。
やわらかい視線で丁寧に選ばれたことばはひっかかることなくするする入り込み、ほどけてとけている。
綺麗すぎるけれどおとぎばなしだからそれでいい。

けれどそれにしても、失くさないでいたいという祈りはこんなにも切実なのかと、思う。

あの長いお話を読むたびに息を詰めてしまう。
深くて狭い湿った闇の世界、ひっかかりそうで逃げてゆく記憶、時計の秒針の音が聞こえてくる。
この話はもっと乾いている。
もっと、粉がけのシフォンケーキみたいに甘い。


ときどき、もしかしたら私はどこにもゆけないから本を読むのかなと思うことがある。
そして、ふりかえったときに、言葉を紡ぐのかもしれない。