* このほしのこのまちで。



ちいさなころから転勤を繰り返してきた。
いくつかの幼稚園、いくつかの学校に通った。
そのたびに変わった友達とも、もう今ではなかなか連絡がとれない。

ずっとひとところに住んでいたら、成長とともに自分の行動範囲がひろがったり変わったりしてゆくのだろう。
軸となる場所はそのまま。
その町が変わってゆくことも自分が刻む時間のなかのひとつ。
新しい場所と古い場所は隣あっていて、いったりきたりできる。
けれど私は成長とともに住む場所を変えてきた。
その場所ごとに経験や思い出がある。
けれどその場所どうしが重なりあうことはない。

今住んでいるところには大人になってから引っ越してきた。
行動範囲のほぼ全てがすでに東京にあるので、近所のことをほぼ知らない。
荒川からずっと家まで何時間もかけて歩きながら私は熱に浮かされたようになっていた。
ヨーロッパを思い出したから。
誰もいない公園、枝だけのさくら並木。
鈍い金色にそよぐ大きなすすき。
分厚い大地が足の裏を押す。


どこかに繋がるために、私は足もとを磨かなきゃいけないと思う。
ずっと深く潜ってしっかりとそれを手にして戻ってきたい。
その輝きは見えているのに正体がわからない、という状態があまりに長く続きすぎた。


少し小高くなった場所にはびっしりとひとが住んでいる。
こんなに密集した電柱をいままでみたことがあっただろうか。