* 原点



首のつけねのあたりに雑音がたまっていて深呼吸をしても抜けない。
こんなときはただ、手をつけたいことや手をつけなければならないことに対して気張りすぎているだけ、とわかっている。
ていねいにほぐしてゆけばいい。

すっかり元気になったちゅんは私の祈りどおり健康の代わりに更なるやんちゃさを身につけてしまった。
けれどちゅんがただ前みたいにじっとうずくまっているのではないことが嬉しい。
ふと、とんと肩に体重をおとしたり、ズボンのベルト穴をいたずらしてだんだん足の裏があたたかくなってきたりすることはとてつもなく胸をあつくさせる。
うちのなかに自由に生きものがうろうろしているって不思議だ。
そして、お互いが何を考えていてなにをしたいのかを察しようとしていることが。

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昨日は22日のイベントの振付。
本番大丈夫なの?という強行スケジュール。
7曲踊るのにリハーサルが3時間くらいしかない!全員が集まれるのは本番が最初かもしれない。
けれどダンサーはなんとかしちゃうんだよね。するしかない。
バレエでもなくコンテでもなく久しぶりに原点にかえって踊れることが楽しかった。
ずっと注いできたものだから。

長いこと好きに、自由に、勘に任せて踊ることをためらっていた。
受け入れてもらえないかもしれないと臆病になった。
ひとを確認しながら踊る癖がついた。
稽古中でさえ自分は間違ったことを感じているんじゃないか?周りのひとが当たり前にわかっていることを理解できていないんじゃないか?とまわりをうかがうようになった。誰かの真似をしておかないとはみ出す気がした。
自分の長所が全部、ほんとうはすぐ短所にむすびつくことにびくびくした。
そんなことにずっと気づかず踊ってきてしまった自分が情けなかった。
はったりだけで成り立っていたことに気づいたらぱちんとはじけて、もうどうやって心地よく動いていたのかわからなくなった。
…なんて情けないやつ。
自信をなくすことって、ほんとうに情けないとおもう。
自信がなくなるのは自分の努力が足りないことのあらわれだから。(私の場合)
もうそれはひととの対比でもなんでもなく、わたしのなかだけの問題。
何の言い訳もする余地がない。
すべては私の選択だから。

けれど久しぶりに原点に戻って、べつになにも自分を恥じなくてもよかったんじゃない、とあっけなく笑えた。
なにかを恥ずかしいと思わねばならないとすればそれは今怠けていることであって、自分が積み上げてきたものは他でもない、私にとってだけはかけがえのないものなんだから。
そんなところを気にしていたとは思わなかった。
なんて子供なの、と思う。

このところ自分のそんな、とても単純な迷路に気づいていっている。
多分、自分にとっての呪いがなにか、というあの会話から。


ちゅんも元気になったし、私も元気になろう。
そう決意したらすぐだ、きっと。


(とはいえ実際は元気です。心配しないでね。弱音をかたちにしてみて、見つけ出したかっただけ。)