島にいくためのガイドブック



島にいくためのガイドブックがあって、それは表紙も可愛いくて中の写真も素敵だった。
インターネットでこころ惹かれる景色を見るとここに行ってみたいなとブックマークをしてみたりノートにその場所を記したりしてみるんだけど「行ってみたいリスト」は消化されない運命ばかりを重ねて遠ざかってゆく。
あまり旅が上手じゃないから、というか計画するということがとことん苦手で、ルートを考えたり宿をとることで得られる安全や効率のよさをかなぐり捨ててついつい無謀な旅を選んでしまう。
それは即興で踊ることのようにその場で自分の一番のキモチに沿うことができるからなんだと思いたいけれど、…やっぱりただ怠けてきた結果なのだろうなあ…。

島にいくためのガイドブックは、真ん中に龍神様のほこらのある池の写真が素敵だった。
龍神様が祀ってあるような池を、実際自分の目で見たことがない。
いろんな本で読んで想像はふくらませているんだけど。
坂口安吾の弥勒のような少女が出てくる村の話にも出てくる。
龍神様じゃなかったかな。けれど、村のそばのしげみを抜けた谷に少女たちが水浴びをしていて、水は空と木々とそれから何か全然別の理由で翠だ。その中心は錐揉みをしたように深くなっている。
…というのは勝手な想像だけど。
新潟に部活の合宿に行った時になにやらそんな沼があったような気がする。
その沼のほとりの看板にひとの顔くらいの大きさの蛾がはりついていて沼よりも怖かったんだった。

島にいくためのガイドブックを見てすぐに、大学時代の友達を思い出した。
彼女は毎年夏に小笠原諸島に行ってイルカと泳いでいた。
どうして彼女と仲がよかったんだろう。
というのは、もちろんわたしは彼女の何かに惹かれていたんだけど、仲良くなったきっかけがあまり思い出せない。
彼女を何と呼んでいただろう…。なんて呼ばれていたかははっきり覚えていて今でも耳の奥で声を再生できるんだけど。。
彼女はよく島とイルカについて話してくれた。
彼女の肌はいつも太陽を吸い込んだような色ですべすべ気持ちよさそうだった。
泳ぐからかな、と思ったけどそういえば小笠原諸島以外で泳いだりしないひとだった気がする。
一緒に行こうよと毎年誘われたけれど、その頃小笠原諸島までは船で丸1日かかったので、それは乗り物の中でもとりわけ船がきらいな私にはどうにも我慢のできないことだった。

島には今、簡単にいけるのかな。
簡単にいけるのはとても喜ばしいし羨ましいのだけれど、島って、手の届かない向こうにあるという状態もなかなかよくて、そんなふうにあっちを夢みていることをしばらく続けていたいな。と考えながら、いや、島には行き当たりばったりでは行けない、計画しなきゃいけないからそういう旅から逃げているのだ、とも思う。