赤い月の翌日



ベッドのなかでごろごろと、久しぶりに明るくなるまで寝付けなかった。
濃い話とカフェモカと、もしかしたらゆうちゃんのレッスン話が神経とからだを満たしていたからなのかもしれない。
あんまり眠れないものだからたくさん妄想をして、かってにかなしがってみていた。
本格的にかなしくなるまえに、これはただのつくりごとなのだとおちをつけて眠る。
ちいさいころよくこれをして、次の日に目が腫れるくらい泣いた。
かなしいことをわざわざ想像するなんて幸せぼけしていたんだなあとも思うし、実際に恐れているなんやかやをやんわりとそういう涙で洗おうとしていたんだなあという気もする。

一度も手が空くことなく仕事をして5時を過ぎたあたりに急に燃料切れになった。
もうひと踏ん張りのために一休みしていたら職場のひとも昨日は明け方まで何故か眠れなかったらしく、月も赤かったですしね、と不思議ちゃん発言をしてしまって急いで口をつぐむ。
今週は職場のひとからごはんを食べようね、というお誘いが続いた。
いつもとても付き合いが悪いのにちゃんと何度も誘ってくれたことがうれしい。
猫かぶりが過ぎてなのだか、真面目と無愛想の区分けのできない不器用さなのだか、この職場に初めてはいったときにお世話になった隣の席の男の子の教育(「あんまりにこにこあれこれやると自分の首を絞めることになるから愛想よくしないほうがいいよ」)が効いているのか、軽い会話というものが極度に苦手なせいか、ちょっとした職場人間不信のせいか、会社のひととはほとんどお話をしない。
こんなに長い時間一緒にいるのに仲良くなれないなんてもったいないなあと思う。
頼ったり、冗談を言い合えるひとがいるといいのになあと思う。
けれどなかなか。
こうしてちゃんと面と向かって話すことができる機会は、だからとても嬉しいのだ。

明日は以前現場でお世話になって、それからずっとつながっている方のサプライズ誕生日会に参加する。
走る方なので走るTシャツをあげたいんだけれど手持ちがなかった。
そういえば雨がふるお祝いの三角の紐ひっぱって破裂音がするやつ(なんて名前だろう)、あれがあるんだった。

思い出さなくてもいいことと関係のあるものごとが、ここ最近身のまわりを漂っている。
どうしてこの時期なのかはなんとなくわかっている。
ドイツから帰ってきたのも5月だし、チャンピオンズリーグも始まるし。
鸚鵡を乗せた腕、熱帯の花。
練習した歌。
改札横のカフェ。
原宿のラーメン屋さん。
ベランダからの街の灯り、くぐもる爆音。
熱くて乾いた時間のこと。