* 春、ラナンキュラス、夢の色、遠い国の妹

ふと、少しだけ家に帰っておちつく時間ができた。
駅を降りるとおひさまがあたたかくて、夜のようには疲れていないひとびとがすいすい歩いていた。
もともとは予定が入っていた夜の冷えが心配であまり軽やかな格好をしてこなかったから、ストールだけ取って襟を開ける。
花屋さんの前を通りかかってアネモネはないかな、とぐるっと見渡した。
まだ寒い頃に並んでいて欲しいなあとなんとなかく横目で通り過ぎていたから、もう遅かったかなと考えながら店員さんに訊いてみたら、やっぱり服と同じように少し早い時期に出るんですよ、と教えてくれた。こんな陽気になったから春のお花が欲しいなと思ってくださるお客さんもたくさんいるんですけど、旬よりもちょっと早く並ぶんです。
ラナンキュラスがあったからそっちにしようと思って、育てやすいかどうか、来年も花がつくのか、聞いてみた。
しゃがんで見ていたらいつのまにか右脇にぴったりくっつくように4歳にならないくらいの男の子が2人立っていた。
「なに見てるの?」と小さな顔がいっぱい私に近づいてちょっとおひさまの匂いがした。
「花を買おうと思って見てるの」と答えると「どれ買うの?」と興味しんしんのようだった。
私としては男の子ともっと話したかったのだけれど店員さんが男の子をまったく気にせずじゃんじゃん説明してくれちゃうので気持ちがそちらにいって、いつのまにか男の子はくるりと向こうに行ってしまった。
ふたり、ほんとうにかわいかったな。

そうだ、不思議だったら立ち止まればいいし、興味があったらきけばいい。
わたしがいくつだからって世界はいつも鮮やかなのだし。

花びらの縁がほんの少し濃い色の、赤のラナンキュラスにした。
本当は紅色がよかったんだけどつぼみが少なくて元気がなかったから。
鉢植えだけど部屋に置いている。

+

白黒の夢を見るひとの話をきいたことがあるけれど私の夢はほぼ全てカラーだと思う。
真っ青な空にスペースシャトルとか、お城に苔むした深い緑とか、見たこともないような虹色の空とか、薄紅色が映りこむ湖とか、あまり現実には見ないくらい鮮やかな色のなにかが出てくることが多い。

はじめてフェリーニの『81/2』を見たあとずっとカラー映画だとは記憶していたのに実際はモノクロだった。
そのあと何回か見たけれどいまだに、最初の浮かぶシーンは色がついている気がする。
そういえばあれも夢のシーンだ。

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友人がカンボジアの女の子のホストマザーのような活動をしていると教えてくれた。
教育を受けられるよう支援している、ということみたい。
秋にその女の子に会いにいったんだって。
「代理のお母さんみたいな」と会話の中で私が言ったら、彼女は「姉のような」と表現していた。

そういうことだってできるのだ、と思った。