* 「あーなったらこうならない」 ニブロール



ニブロールを見ていてぼんやりと、孤独を恐れるいきものは人間だけなのだろうか、ということをしばらく考えていた。
目の前で起こっている激しい感情の発露のようなものと一緒に侵蝕してたまらない気持ちになった。
永遠に落ちてゆく感覚、終わりのない落下はもしかしたら死と一番遠いのかもしれない。けれど死にしか向かっていないという意味では、一番死に近い。
そういえば、死のことを考えるのも人間だけなのかもしれない、と思う。
私たちはどんなに年を重ねても初めてその人生を生きるのだなあ、癇癪を起こしたりたびたび驚いたり、痣だらけになりながらわめいて、ぶつかる。
全部ぜんぶ削ぎ落としたら、「いや」と「欲しい」の二つだけなのじゃないだろうか。
赤ちゃんと同じ。
なにかいとしいような情けないような、不思議な感情が押し寄せた。

この公演がどんなことを伝えてくれようとしているのかということよりも、次々に浮かんではかたちを変えてゆく雲のような自分のこころの動きを転がしていた。
アネット・メサジェを思い出したり、そこから呼吸のことを連想したり、そこからダリの、ガラの心臓のことをかんがえたり。
どうしてひとは思いを断ち切りたいときに海へむかうのだろう、どうして指輪は海へ投げ捨てられるのだろう、とか。

最後の照明、とても綺麗だった。
夜の海に雲間から光が落ちているようだった。
月よりもひろく、太陽よりもささやかな。
まばたきみたいなライトのざわめきを残して終わって、しばらく息を止めていた。


みのりちゃんとえみちゃん、素敵だった。
最後のシーン、何故か一緒に見た淡路島からの海を思い出した。
わたしたちが見たのは夏の、明るい海だったのにね。